福岡高等裁判所 平成5年(ネ)356号 判決 1995年12月26日
控訴人(附帯被控訴人) 東宝住宅株式会社
右代表者代表取締役 東精男
右訴訟代理人弁護士 清原雅彦
右訴訟復代理人弁護士 畑中潤
被控訴人(附帯控訴人) 半田和宣
右訴訟代理人弁護士 中村仁
同 山上知裕
主文
一 控訴人(附帯被控訴人)の控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。
1 控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し
(一) 別紙認容金額一覧表記載の各賃料相当額及び各金員に対する同表の各利息起算日から完済までいずれも年五分の割合による金員
(二) 平成七年一〇月一日から控訴人(附帯被控訴人)が別紙物件目録(一)記載の「専有部分の建物の表示」記載の建物の所有権を被控訴人(附帯控訴人)に移転するまで月額金四三万一八七六円の割合による金員を支払え。
2 被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求(当審で拡張された請求を含む)を棄却する。
二 被控訴人(附帯控訴人)の附帯控訴を棄却する。
三 訴訟の総費用はこれを二分し、その一を被控訴人(附帯控訴人)の負担とし、その余を控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。
事実及び理由
第一申立
一 控訴の趣旨
1 原判決中控訴人(附帯被控訴人)(以下「控訴人」という。)敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)(以下「被控訴人」という。)の負担とする。
二 附帯控訴の趣旨
1 原判決を次のとおり変更する。
2 控訴人は被控訴人に対し別紙物件目録(一)記載の建物を収去して同目録(二)記載の土地のうち別紙図面斜線部分九六一・六九平方メートルを明渡せ。
3(一) 主たる請求
控訴人は被控訴人に対し
(1) 昭和五八年一〇月から平成七年九月まで別紙請求金額一覧表(以下「一覧表」という。)の「損害金月額欄」記載の各金員及び各金員に対する同表の「遅延損害金起算日A欄」記載の日から各金員支払済みまで年五分の割合による金員
(2) 平成七年一〇月一日から右明渡済みまで月額金六〇万七一九二円の割合による金員を各支払え。
(平成四年一月一日から右明渡済みまでの請求につき、当審における請求金額の拡張となる。)
(二) 予備的請求1
控訴人は被控訴人に対し
(1) 昭和五八年一〇月から平成七年九月まで一覧表の「損害金月額欄」記載の各金員及び各金員に対する同表の「遅延損害金起算日C欄」記載の日から各金員支払済みまで年五分の割合による金員
(2) 平成七年一〇月一日から右明渡済みまで月額金六〇万七一九二円の割合による金員を各支払え。
(三) 予備的請求2
控訴人は被控訴人に対し
(1) 昭和五八年一〇月から平成七年九月まで一覧表の「損害金月額欄」記載の各金員及び各金員に対する同表の「遅延損害金起算日B欄」記載の日から各金員支払済みまで年五分の割合による金員
(2) 平成七年一〇月一日から右明渡済みまで月額金六〇万七一九二円の割合による金員を各支払え。
(予備的請求1、2の平成四年一月一日から右明渡済みまでの各請求につき当審における請求金額の拡張となり、予備的請求1、2は付帯請求の法的性質の違いによるものである。)
4 控訴人は被控訴人に対し金二〇〇万円及びこれに対する昭和五八年一〇月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。
6 仮執行宣言
第二事案の概要
一 本件は、マンション建築販売業者からいわゆる分譲マンションを購入して土地付区分所有権を取得したマンションの所有者らが、マンション業者が敷地の一画に設置している駐車場建物により、マンション敷地に有する各共有持分権を侵害されたとして、土地共有持分権に基づき駐車場建物の収去土地明渡し、不法行為ないし不当利得に基づき土地共有持分権侵害による損害賠償ないし駐車場建物敷地の利用による利得の返還を求めている事件である。
被控訴人は、マンションの各区分所有権者によって構成される管理組合の理事長であり、管理組合の総会決議により訴訟追行権者に選任された者である(弁論の全趣旨)。したがって、本件における実体法上の権利義務の実質的帰属主体はマンションの各区分所有権者ないしその管理組合であり、本件判決の効果も実質的に各区分所有権者ないしその管理組合に及ぶことになる。
二 争いのない事実
1 控訴人は別紙物件目録(二)記載の土地(以下「本件土地」という。)上に第二ホワイトキャッスル下到津(以下「本件マンション」という。)を建築し、分譲した業者である。
2 本件マンションは、先ずA棟(八〇戸)が建築(登記簿上昭和五八年九月二〇日新築)され、次いでB[1]棟、B[2]棟(八四戸)が建築(登記簿上昭和五九年六月一日新築)された。いずれも一一階建である。
3 控訴人は、A棟、B[1]、B[2]棟の他に、A棟建築と同時に、別紙物件目録(一)記載の「一棟の建物の表示」にあるD号館(以下「D号館」という。)を建築し、そのうち同目録(一)記載の「専有部分の建物の表示」にある建物部分(登記簿上昭和五八年九月二〇日新築、以下「本件駐車場建物」という。)を駐車場とし、同年一〇月一八日自己を権利者とする区分所有建物としての所有権保存登記をした。
D号館は陸屋根式の平家建で、本件駐車場建物のほか集会所、機械室(電気配盤、ポンプ収納)がある。
4 控訴人は、本件駐車場建物を所有することにより、本件土地のうち別紙図面斜線部分九六一・六九平方メートル(以下「本件土地部分」という。)を占有している。
5 控訴人は本件土地につき一万分の九〇の共有持分の登記名義を有している。本件マンションは完成前から分譲契約が始まり完売され、昭和五八年一〇月一三日以降区分建物の保存登記及び敷地権たる本件土地の共有持分権の移転登記がされている。本件マンションの各専有部分を買受けた各区分所有者は、敷地権として、控訴人の右共有持分を除いた残余の共有持分につき、概ね各専有部分の床面積の割合に応じた共有持分権の移転登記を受けている。
三 争点
1 本件土地の共有権者
(一) 被控訴人の主張
本件土地はマンションの分譲を受けた各区分所有者全員の共有である。本件マンションは完売されたのであるから、控訴人に留保された本件土地の共有持分権は存在しない。控訴人は各区分所有者に対し各専有部分の床面積の割合に応じた共有持分権の移転登記をすべきところ、これより少ない割合の共有持分権の移転登記をしたため、登記簿上、控訴人に本件土地の共有持分権が留保されているかのような記載になっているに過ぎない。控訴人は実体法上本件土地の共有持分権を有しない。
(二) 控訴人の主張
本件土地は分譲マンションの各区分所有者のみによる共有ではなく、販売会社である控訴人も一万分の九〇の持分を有する共有権者である。
2 控訴人の本件土地部分の占有権限
(一) 控訴人の主張
(1) 地上権、使用貸借権の設定
<1> 控訴人は本件マンションの各専有部分を分譲するに際し、本件土地上に控訴人が本件駐車場建物を所有しており、これにより本件土地部分を専用使用することを説明しており、各マンション購入者はこれを承認して各専有部分の分譲を受けたものである。即ち、控訴人は分譲の都度各購入者との間に、控訴人が本件駐車場建物を所有するため、本件土地部分を期限の定めなく無償で専用使用する旨の地上権設定契約を締結した。
<2> 仮にそうでないとしても、右事情によれば、控訴人は本件マンションの各専有部分を分譲するに際し、分譲の都度各購入者との間に黙示的に右地上権設定契約をしたものである。
<3> マンション購入者は各専有部分の区分所有権と共に地上権により制限された本件土地の共有持分権(敷地権)を取得したに過ぎない。すくなくとも、使用貸借権により制限された共有持分権を取得したに過ぎない。これを法現象として観察すると、控訴人は駐車場に使用する目的で本件土地部分の専用使用権を留保してマンションを分譲した関係になる。
(2) 団地建物所有による敷地利用権
建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)六五条によれば、一団地に数棟の建物があって、その団地内の土地がそれらの建物の所有者の共有に属する場合には、団地建物所有者は全員でその団地内の土地を管理することになる。本件マンション棟と駐車場建物は、別棟になっているが、この団地の法理の適用により、あたかも一棟の建物のように取り扱われる。控訴人は本件駐車場建物を専用部分として所有するとともに本件土地につき一万分の九〇の共有持分権を有している。したがって、控訴人は本件土地につき敷地利用権を有する。
(3) 権利濫用
<1> 控訴人はマンション購入者にとって不可欠な駐車場を確保するため約八〇〇〇万円を投じて本件駐車場建物を含むD号館を建設した。D号館の建設費は、建物の負荷重量が大であること、防災設備を設置する必要があったことから割高となったが、本件マンションの分譲代金に加味していない。また、駐車場をマンション購入者に分譲すると購入者の資金的な負担が大きいことから、分譲方式をとらず、低料金による賃貸借の方式を採用した。
<2> 本件土地の一部に本件駐車場建物が存するからといって、将来本件マンションを建替えるにあたり、同一面積のマンションであれば建ぺい率の関係で妨げになることはない。
<3> その他諸般の事情によれば、本件駐車場建物を収去して本件土地部分の明渡を求める被控訴人の請求は権利の濫用であって許されない。
(二) 被控訴人の主張
団地建物所有による敷地利用権について
控訴人は実体法上本件土地の共有持分権を有しないから、控訴人の団地建物所有による敷地利用権の主張は前提を欠き失当である。また、本件駐車場建物は原始管理規約においても団地建物の対象とされていない。控訴人は本件土地に共有持分権を有するというが、それに基づく議決権行使、費用負担の実績もない。
3 金員請求権の存否
(一) 被控訴人の主張
(1) 本件土地部分の賃料相当額は一覧表の「損害金月額」欄記載の各金員のとおりである。各損害金月額は平成元年一二月一五日時点の月額賃料相当額五六万八〇〇〇円を平成二年度の月額賃料相当額とし、別紙地代相当額計算書記載の消費者物価指数により各年度の月額賃料相当額を算出したものである。また、昭和五八年一〇月は一三日から三一日までの分である。
(2) 控訴人は、本件土地部分を不法に占有しているから、被控訴人に対し、昭和五八年一〇月一三日から明渡済みまで一覧表の「損害金月額欄」記載の各金員及び各金員に対する同表の「遅延損害金起算日A欄」記載の日から各金員支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。
(3) 仮に不法行為が成立せず、かつ、控訴人が善意であるとしても、控訴人が一覧表の「損害金月額欄」記載の各賃料相当額を不当利得していることにかわりはなく、被控訴人は控訴人に対し不当利得返還請求権を有するところ、右不当利得返還請求権は期限の定めのない債権であるから、催告により遅滞に陥る。被控訴人は、平成元年二月ころ、控訴人に対し、その支払を催告した。したがって、右不当利得返還請求権は、平成元年二月までに発生した分につき遅くとも平成元年二月二八日までに遅滞に陥っており、またそれ以降に発生した分については直ちに遅滞に陥っていることになる。
よって、控訴人は被控訴人に対し、昭和五八年一〇月一三日から明渡済みまで一覧表の「損害金月額欄」記載の各金員及び各金員に対する同表の「遅延損害金起算日C欄」記載の日から各金員支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。
(4) 仮に不法行為が成立しないとしても、控訴人は被控訴人に対し、昭和五八年一〇月一三日から明渡済みまで一覧表の「損害金月額欄」記載の各賃料相当額を悪意で不当利得していることになるから、各金員及び各金員に対する同表の「遅延損害金起算日B欄」記載の日から各金員支払済みまで民法所定の年五分の割合による利息の支払義務がある。
右の利息の起算日は、昭和五八年一〇月一三日から平成元年一二月一五日の訴状送達の日の属する月である平成元年一二月までの各賃料相当額につき被控訴人の原審平成三年一二月二日付準備書面送達の日の翌日である平成三年一二月三日であり、平成二年一月以降の各月の賃料相当額につき各翌月一日である。
(5) 被控訴人は本訴の提起、追行を被控訴人訴訟代理人に委任し弁護士費用二〇〇万円の損害を被った。右損害は控訴人の本件土地部分占拠の不法行為に因り生じた損害である。
(6) よって、控訴人は被控訴人に対し、不法行為ないし不当利得に基づき附帯控訴の趣旨記載の各金員を支払う義務がある。
(二) 控訴人の主張
(1) 地上権、使用貸借権
控訴人は前記のとおり地上権、使用貸借権、団地建物所有による敷地利用権を占有権限ないし法律上の原因として本件土地部分を占有し、それによる利益を得ているのであるから、不法行為ないし不当利得に基づく債務を負担しない。
団地建物所有による敷地利用権者は、一棟の建物の区分所有者が他の区分所有者に地代の支払をする関係にないのと同じように、他の団地建物所有による敷地利用権者に対し、敷地利用による債務を負担しない。
また、控訴人には不当利得として返還すべき現存利益も存しない。
(2) 善意占有者の果実取得権
控訴人が仮に本件土地部分の占有につき無権限者であったとしても、控訴人は占有権限があると信じてこれを占有してきたのであるから、民法一八九条一項の法定果実に類するものとして地代相当の使用利益を取得する権利があるから、敷地利用による債務を負担しない。
第三証拠関係
記録中の原審・当審の証拠関係目録の記載を引用する。
第四判断
一 本件土地の共有権者
1 前記争いのない事実及び証拠(甲二、五、六、一二、二九、原審証人庄崎憲一、中村照男の各証言、控訴人代表者の当審における供述)によれば、次の事実が認められる。
(一) 控訴人は、昭和五七年五月頃、マンション建築の目的で本件土地を含む土地を購入した。控訴人は、当初、本件土地を含む一体の土地を敷地として、A棟、B棟、C棟の分譲マンション棟と、それに付属する設備として、マンションの購入者が利用し得る陸屋根式の駐車場建物を建築する計画であった。その後、最終的には、A棟、B棟を分譲マンションとし、C棟を自社所有の賃貸マンションとすることに計画を変更した。そこで、控訴人は、本件土地にいずれも一一階建のA棟、B[1]、B[2]棟の分譲マンションとD号館を建築し、本件土地を除いた部分の土地に一一階建の賃貸マンションのC棟を建築し、後にC棟の敷地を売却している。
(二) 控訴人は、本件マンション完成前の昭和五七年六月頃から分譲を開始し、昭和五八年九月頃A棟(八〇戸)を完成(登記簿上同年九月二〇日新築)し、各専有部分の購入者に同年一〇月頃から引渡を始め、更に、昭和五九年六月頃B[1]、B[2]棟(八四戸)を完成(登記簿上同年六月一日新築)し、各専有部分の購入者に同年七月頃から引渡を始め、いずれも完売されている。
(三) 控訴人は、A棟と同時にD号館の建築にも着手し、昭和五八年九月頃、A棟の完成と期を同じくしてこれを完成している。
D号館は、陸屋根式平家建の建物であり、本件駐車場建物(登記簿上昭和五八年九月二〇日新築)、集会所、機械室から成っている。機械室は本件マンションの不可欠の施設として機能し、集会所は管理組合の集会等に利用されている。
控訴人は、D号館のうち本件駐車場建物につき、昭和五八年一〇月一八日受付の所有権保存登記を経るとともに、その敷地である本件土地部分を占有している。本件土地部分は本件土地の「空地」として残された面積の約二四パーセントを占めている。
(四) 控訴人は、本件駐車場建物の一階を四六区画、二階(陸屋根部分)を六〇区画に線引き管理して、マンション購入者の「駐車場」の用に供することにした。
(五) 控訴人は本件土地につき一万分の九〇の共有持分の登記名義を有している。本件マンションの各専有部分の購入者は、敷地権として、控訴人の右共有持分を除いた共有持分につき、概ね各専有部分の床面積の割合に応じた共有持分権の移転登記を経ている。
2 右認定事実によれば、本件土地は元来控訴人の所有であったところ、控訴人は本件土地上にマンション棟と共に本件駐車場建物を建築し、それら建物と敷地全部につき所有者となった後、マンションの購入者に各区分所有建物の目的物である各専有部分を販売するに際し、これに付加して各敷地権として本件土地の各共有持分権を譲渡したのであるが、その際、本件土地の各共有持分権の全部を譲渡することなく、その一部である一万分の九〇の共有持分権を自己の権利として留保していることが明らかであるから、そのマンション販売方法の是非はともかくとして、控訴人はその共有持分権の権利者であるというほかない。そうすると、本件土地はマンションの購入者である各区分所有者のみによる共有ではなく、販売業者である控訴人も一万分の九〇の持分を有する共有権者であるということになる。
控訴人が本件マンションの各専有部分の購入者と交わした「土地付区分建物売買契約書」には、「敷地については、全区分所有者の共有に属するものとし、この共有持分は各々の所有する建物の専有部分の床面積の割合を基準として定めた別表の持分による。」と定められている(但し「別表」は添付されていない。)(甲六、七)が、この記載は控訴人を除く土地共有者の持分割合だけについて記述していると解することもできるから、右のとおり認定することを妨げるものではない。
二 控訴人の本件土地部分の占有権限
1 証拠(甲五、六、七、八の一、二、甲一三、二九、乙一、原審証人庄崎憲一、中村照男の各証言、控訴人代表者の当審における供述)によれば、次の事実が認められる。
(一) 控訴人が本件マンションの分譲のために昭和五七年八、九月頃作成使用した「散らし」(広告有効期限同年八月末日、同年九月末日)の「概要」欄には「駐車場」として「一五三台(予定)」との記載がある。控訴人がその後使用した「散らし」(広告有効期限昭和五八年二月末日、八月末日、一〇月末日、昭和五九年二月末日、七月末日)の各「概要」欄には「駐車場」として「一五三台(予定)-屋内駐車場一一三台(東宝住宅所有)屋外駐車場四〇台(管理組合所有)」と記載されていた。
(二) 控訴人が本件マンションの分譲にあたり作成した宅地建物取引業法三五条一項所定の「重要事項説明書」には、「専用使用権に関する規約等の定め」の項に、管理組合が管理する駐車場が四〇台分ある旨記載されているほか、「その他」の項に、本件マンションは「一敷地内にA棟とB棟のマンションと駐車場(東宝住宅所有)と別敷地内にC棟(予定)からなっています」と記載されている。
(三) 控訴人が本件マンションの各専有部分の購入者と交わした「売買契約書」には、建物及び敷地の共用部分として付属設備の中に「屋外駐車場」と記載されており、売買物件欄の土地欄に専用使用部分として「駐車場」と記載され、第二六条二号に「本物件に属する敷地の一部について一部の区分所有者に専用駐車場として有償で専用使用させることを買主は承諾する」旨記載されているが、本件駐車場建物が存することを明記した部分は見当たらない。
(四) 控訴人がマンションの分譲に際し予め作成した本件マンションの原始「管理規約」には、「供用部分の範囲」として別表2に「駐車場」があげられているが、本件駐車場建物が存することを明記した部分は見当たらない。土地に関する定めとして、一四条に「土地の一部を特定の者に専用使用させることを承認する。」、一五条二項に「区分所有者は、管理組合が総会の決議を経て敷地の一部について第三者に使用させることを承認する。」、二八条に「敷地に係る専用使用料はその管理に要する費用に充てるほか、修繕積立金として積み立てる。」とされ、また、「敷地の変更、処分」は四六条により「組合員総数の四分の三以上の多数決により決すべき特別決議事項とされている。
(五) 控訴人は、本件マンションの分譲にあたり、駐車場を希望する各専有部分の購入者、居住者に、抽選の方法により、まず管理組合の管理する駐車場を割当て、次いで同じく抽選の方法により、本件駐車場建物の駐車場の区画を割当て、結局、駐車場を希望する者全員に、駐車場が確保された。控訴人は、本件駐車場建物の余った駐車場の区画をC棟の居住者及び部外の銀行等に駐車場として賃貸している。管理組合の管理する駐車場は三〇台分であり一区画当たり月額七〇〇〇円であり、管理組合がその収益を管理している。本件駐車場建物の屋上駐車場は一区画当たり月額七〇〇〇円、一階駐車場は一区画当たり月額一万一〇〇〇円であり、控訴人がその利益を収受している。
2 そこで、右認定事実に即して検討するのに、本件マンション分譲の際の初期の「散らし」の記載は用意される駐車場の数のみであるが、後期の「散らし」には「屋内駐車場一一三台(東宝住宅所有)」と記載されており、控訴人がマンション敷地上に駐車場に使用する目的の建物を所有することを窺うことができること、しかし、そこからその根拠となる権利の有無、その具体的内容、駐車場使用による収益の帰属先等を直接明らかにすることはできないこと、宅地建物取引業法三五条一項五号の二によれば、物件説明書には「敷地に関する権利」の記載を要するところ、本件「重要事項説明書」では本件駐車場建物に関するものとして、わずかに「駐車場(東宝住宅所有)」と記載されているに過ぎず、そこからは、控訴人がマンション敷地上に駐車場に使用する目的の建物を所有することを窺うことはできるが、やはり、その根拠となる権利の有無、その具体的内容、本件土地部分を駐車場に使用したことによる収益の帰属先等を直接明らかにすることはできないこと、売買契約書には、買主は敷地の一部を一部の区分所有者に専用駐車場として有償で専用使用させることを承諾する旨の記載があるが、本件駐車場建物が存することを明記した部分は見当たらないこと、原始「管理規約」にも本件駐車場建物に関し直接明記した部分は見当たらないが、土地に関する定めとして、敷地の一部を一部の区分所有者に専用使用させることの承認、管理組合が総会の決議を経て敷地の一部を第三者に使用させることの承認、敷地の専用使用料の使途、帰属先についての規定、敷地の変更、処分を特別決議事項とする規定等があること、一度現地に赴けばマンションの敷地上に本件駐車場建物が存することは一見して明らかであること、現にマンション購入者の多くの者が本件駐車場建物の駐車場の割当てを受けて使用していること、以上の事実が明らかである。
そして、右認定判断を総合すれば、控訴人はマンション敷地内に駐車場建物を建築所有することを明らかにし、それらの土地、建物の状況を前提として、そのような土地利用形態を伴うマンションの購入契約の申込みの誘引をしたこと、マンションの購入者もこれに応じて本件駐車場建物の敷地について共有持分権を取得しても控訴人の本件駐車場建物の存在によって利用が制限されることを知った上で申込みをし、これを承諾した控訴人との間にマンションの各専有部分の売買契約が締結されたこと、即ち、少なくとも、マンションの購入者らは、控訴人に駐車場建物所有の目的でマンション敷地の一部を使用させることを承認して区分建物とその敷地権たる共有持分権を取得したと認めるほかない。ただ、右認定事実からは、その根拠となる権利の性格、その具体的内容、本件土地部分を駐車場に使用したことによる収益の帰属先等については、明確な定めがあったとは認められない。むしろ、控訴人は分譲マンションの販売対策としてマンションの購入者全員の駐車場を確保する必要と意図があったこと、原始管理規約によって管理組合の管理に委ねられた三〇台の駐車場だけではその必要を満たさなかったこと、本件土地部分に野外の駐車場を設置することにしてもなお不足すること、マンションの購入者全員の駐車場を確保する必要と意図を満たすためには本件土地部分を立体的に利用してその不足を補う必要があったこと、控訴人としても本件駐車場建物を建設するために相応の費用を要することから、その回収のため本件土地部分を駐車場建物の所有のために使用したことによる収益に与かる必要があったこと等から、マンション購入者らと控訴人の意思を合理的に推定すれば、マンション購入者らは控訴人に駐車場建物所有の目的でマンション敷地の一部を使用することを承認した上で、本件土地部分と本件駐車場建物から成る複合不動産から生じる収益につき、当面、本件土地部分から生じる分(控訴人の共有持分に相当する分も含めて)をマンションの区分所有者らに帰属させ(その収益は原始管理規約二八条所定の敷地に係る専用使用料に該当し、管理組合が修繕積立金として積み立てることになる。)、本件駐車場建物から生じる分を控訴人にそれぞれ帰属させる(本件駐車場建物の建設に要した費用の回収にあてられることになる。控訴人がその回収の手段としてマンション購入者による駐車場の需要を満たした残余の駐車場を第三者に賃貸することも許容される。)ことにし、控訴人が本件駐車場建物から生じる収益をもって本件駐車場建物の建設に要した費用を回収した暁には、本件駐車場建物の所有権を最終的にマンションの区分所有者らに帰属させることを内容とする契約をしているものと解するのが相当である。そうすると、その契約の法的性格は土地の使用貸借を伴う土地管理委託契約類似の無名契約であるというべきである。更に、区分所有法は区分所有の目的とすることのできる「建物」について区分所有者の権利義務、供用部分の管理等に関する事項を主として規定するものであり、もとより区分建物の敷地に関する権利の内容を直接規定するものではないから、敷地に関する権利の内容は専ら当事者間の契約の内容によって決まるというほかないが、本件にあっては、契約当事者間の意思を右のように解釈することによって、マンションの区分所有者らのマンション敷地の利用権能とマンション販売業者の販売対策は合理的に調和することになり、これにより右契約の存立を支えているというべきである。
そうすると、控訴人は右土地使用貸借を伴う土地管理委託契約類似の無名契約に基づき本件土地部分を占有しているのであるから、被控訴人の本件土地部分の明渡を求める請求は理由がない。
3 右のとおり、控訴人の本件土地部分の占有権限が認められたからには、控訴人のその他の占有権限の主張について判断する必要はないことになるが、控訴人はその他の占有権限の主張をもって金員請求権の不存在の理由としているので、そのうち地上権の主張について、ここで判断することにする。
控訴人は、本件駐車場建物の敷地に明示的に、すくなくとも黙示的に地上権の設定を受けたと主張し、その法律関係は次のとおりであると主張する。即ち、控訴人は、自己の所有土地上に地上権を設定して駐車場を建築したが、マンション販売以前は混同の法理により、その地上権は顕在化されておらず、所有権に包摂され潜在的な状態にあり、販売と共に共有持分の形で土地所有権の観念的一部が譲渡されるに及んでこれが顕在化され、マンションが完売された時点ではじめて地上権が完全なものとなる関係にある。それを別の観点から観察するとき、マンション購入契約時に購入者において敷地の一部に売主に対し地上権設定の合意をすることである。このように、特殊な契約成立の過程を経ることから、当事者間で明確な認識のもとに「地上権設定契約」という法的に整理された形の交渉や契約書の作成は行われないというに過ぎない。
しかし、区分建物及び敷地の共有持分しか譲り受けていないマンションの購入者は、購入時に敷地それ自体について地上権を設定する権限を有しないし、共有持分権に対して地上権を設定することも許されていない。また、自己所有土地に自己の有する地上権を設定することは現行法の予定しないところであるから、土地所有権に包摂されて潜在的に存した地上権がマンションの完売時に顕在化するということもない。結局、控訴人が地上権を取得するためには、マンション完売後に敷地共有者全員(管理組合)との間に地上権設定契約をする(これは共有物の変更にあたる。)ほかないが、そのような契約があったとの主張、立証もない。
控訴人の地上権に関する主張は理由がない。
三 金員請求権の存否
1 不法行為に基づく損害賠償請求権
被控訴人は、控訴人は本件土地部分を不法に占有していると主張する。
ところで、控訴人による本件駐車場建物所有による本件土地部分の占有は、前示の土地使用貸借を伴う土地管理委託契約類似の無名契約に基づくものであった。そうすると、控訴人による本件土地部分の占有、それ自体は右契約に基づき許容されているのであって、区分所有者らとの関係で不法行為を構成しない。
そうすると、被控訴人の不法行為に基づく損害賠償の請求は理由がなく、右請求が理由があることを前提とする被控訴人の弁護士費用の損害賠償の請求も理由がない。
2 不当利得返還請求権
(一)(1) 右契約は、他面、本件土地部分と本件駐車場建物から成る複合不動産から生じる収益につき、本件土地部分から生じる分をマンションの区分所有者らに、本件駐車場建物から生じる分を控訴人にそれぞれ帰属させることをその内容としているのであるから、控訴人が本件土地部分から生じる収益を自らに帰属するものとして独占的に収益する法律上の原因はないのであり、控訴人は右契約の当事者として、このことを知って本件土地部分から生じる収益を自らに帰属するものとして独占的に収益している悪意の受益者とみるべきであり、その限りにおいてマンションの区分所有者らに対し不当利得の返還義務を負担するというべきである。
控訴人の善意を前提とする被控訴人の予備的請求1は理由がない。
(2) 控訴人は、本件土地部分から生じる収益がマンションの区分所有者らに帰属することを右契約の当事者として知っていたのであるから、控訴人の民法一八九条一項の善意占有者の果実取得権を根拠として右不当利得返還請求権の成立を争う主張は理由がない。
(3) また、控訴人は本件土地部分に本件駐車場建物所有目的の地上権を有するから、本件土地部分から生じる収益は控訴人に独占的に帰属するとして、右不当利得返還請求権の成立を争うが、右地上権が成立しないことは前示のとおりである。
(4) 更に、控訴人は、団地建物所有による本件土地の利用権を有するから、右不当利得返還請求権は成立しないと主張する。そして、控訴人が本件駐車場建物につき区分建物としての保存登記をしており、かつ、本件土地につき共有持分権をしていることは、前示のとおりであるから、控訴人は区分所有法六五条により本件土地につき敷地利用権を有するかのようでもある。しかし、本件駐車場建物が区分所有法六五条所定の団地建物に該当するとしても、同法は、もとより敷地の共有持分権者らが共有土地の収益方法を定めることを排除するものではないから、前示マンションの購入者らと控訴人間の契約により、本件土地部分から生じる収益をマンションの区分所有者(管理組合)に帰属させることになっているのであるから、本件土地部分から生じる収益を自らに帰属するものとして独占的に収益することは、マンションの区分所有者らに対する関係でやはり不当利得となる。控訴人の右主張は理由がない。
(二) そうすると、前示のとおり、本件マンションは完成前から分譲契約が始まり完売され、昭和五八年一〇月一三日以降区分建物の保存登記と敷地権たる本件土地の共有持分権の移転登記がされているから、控訴人は区分建物所有者ら(管理組合)に対し、同日から控訴人が本件駐車場建物の所有権を区分建物所有者ら(管理組合)に移転するまでの間の右複合不動産から生じる現在及び将来の収益のうち本件土地部分から生じる収益額を不当利得として返還すべき関係になる。
(三) そこで、本件土地部分と本件駐車場建物から成る複合不動産から生じる収益のうち、本件土地部分から生じる収益額を求めることになるが、それは結局本件土地部分の賃料相当額ということになる。
当審鑑定人原田明二は、本件土地部分の平成元年一二月一五日時点の月額賃料を月額四〇万四〇〇〇円(四二〇円/平方メートル)と評価している。右鑑定は、近隣地域における標準的使用の状況、将来の動向、本件土地部分の個別的要因及び公法上の規制内容等に鑑み、本件土地部分の最有効使用を現況通り「駐車場の敷地」と評価した上、積算法による積算賃料月額三九万七八〇〇円(四一四円/平方メートル)(取引事例比較法によって求めた比準価格と収益還元法によって求めた価格との開差について熟慮のうえ更地価格を求め、これに基づいて基礎価格を決定し、これに期待利回りを乗じ、必要経費を加算して求めた価格)と配分法に準ずる方法による賃料月額四〇万九七〇〇円(四二六円/平方メートル)(隣接土地に帰属する純収益を求め、これに必要経費を加算し、本件土地部分が高度利用できないことを考慮して求めた価格)を求め、その平均値をもって月額賃料相当額と評価したものであり、鑑定の手法、経過、結果も合理的であるから、これによることとする。
これと異なる原審鑑定人土手栄治の鑑定の結果は、本件土地部分の最有効使用を中高層共同住宅の敷地と評価した上でのものであって、右鑑定の結果は既にその点において採用できない。
(四) してみると、控訴人は区分建物所有者ら(管理組合)に対し、(一)別紙認容金額一覧表記載の各賃料相当額の不当利得金及び各金員に対する同表の各利息起算日から完済までいずれも民法所定の年五分の割合による利息、(二)平成七年一〇月一日から控訴人が本件駐車場建物の所有権を区分建物所有者ら(管理組合)に移転するまで月額四三万一八七六円の割合による不当利得金の支払義務を負担することになる。
四 結論
以上の次第であるから、被控訴人(本件マンションの各区分所有権者ないしその管理組合の訴訟追行権者)の請求は金員請求の予備的請求2につき主文第二項の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求(当審で拡張された分を含む)を失当として棄却すべきところ、これと異なる原判決を控訴人(附帯被控訴人)の控訴に基づき変更し、被控訴人(附帯控訴人)の附帯控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九二条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中貞和 裁判官 宮良允通 裁判官 野崎彌純)